機械仕掛けの神の国

◆ 第三章 赤き眷族 ◆


  12-03、奸譎(3)



 火界の空が最も赤く染まる夕暮れ時、砂神ブレスリトは配下の者を伴って鍛冶の種族の里から少し離れた場所まで遣って来た。起伏が激しい地形である上に其処彼処に大きな岩が転がっている所為で、里を肉眼で確認することは出来なかったので、彼は〈千里眼〉を使って内部の様子を窺う。
「ほうほう、成程そういう策か。陰気な性格と斜に構えた態度の所為で他者と対立しやすいシャンセ君が、よくもまあ、あそこまで鍛冶の種族を信用させることが出来たものだ。偉い偉い」
 だが言葉とは裏腹に、砂神の表情は真剣なものへと変化する。
(或いは、信じるに足らない者でも受け入れざるを得ない程、鍛冶の種族が追い詰められているということなのか。何れにせよ、反乱の準備が整わない段階で中央が動いてしまったのだから、奴等に生き残る目はないだろうな)
 今後の方針は決まった。砂神は傍らにいた部下達に胸の内を語る。
「鍛冶の種族から〈祭具〉を回収する。このままでは火界の中枢に此方の計画が漏れる恐れがある。まあ、何れは必ず知られることになるだろうが、流石に時期が早過ぎるからな。安全策を取ろう」
「潜入、ですか?」
 部下がそう返すと、砂神は眉を寄せて腕を組み、続いて首を傾げた。
「んっ、んー……。それも良くない気がするなあ。運が悪ければ焼物の種族と鉢合わせするか、うっかり痕跡を残してしまいそうだ。さて、どうしたものか」
 砂神は暫く悩んだが、やがて考えを纏めて姿勢を戻した。
「頑張った坊やには悪いが、ちょおっと邪魔をさせてもらおう。ああ、君達は不可視化の〈祭具〉を準備しておくように。作戦実行は恐らく数日内。急ぎで頼むよ」
 砂神は手を振って踵を返す。その背中に向かって、部下達は一斉に跪き承知の意を伝えた。



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